静岡県立大学
生命創成探究センター
分子科学研究所
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抗生物質の活性を高める新酵素を発見 ?AIを活用した構造最適化により酵素機能強化にも成功?
発表概要
静岡県立大学大学院 薬食生命科学総合学府 博士前期課程2年の小澤日華里さん、博士前期課程修了生の宮田梓さん、食品栄養科学部の三好規之教授、伊藤創平准教授、藤浪大輔助教、および生命創成探究センター/分子科学研究所の林成一郎博士研究員、加藤晃一教授らの研究グループは、抗生物質の活性を高める新たな技術を開発しました。本研究成果は、化学分野で最も権威ある国際学術誌である Journal of the American Chemical Society に掲載されました。
発表のポイント
- 薬剤耐性菌による感染症が世界的に広がる中、新規抗生物質の開発は停滞しています。
- 抗菌ペプチド注1を、新酵素により脂質修飾することで、抗菌活性を大幅に向上させることに成功しました。
- AIを活用し触媒機能が強化された改変酵素も開発、多様な抗菌ペプチドの脂質修飾が可能となりました。
- 本技術は、抗菌薬開発やペプチド創薬の新たな基盤となることが期待できます。
研究背景
従来の抗生物質が効かない薬剤耐性菌の増加により、治療が困難な感染症が世界中で拡大しています。薬剤耐性菌が原因で毎年100万人以上が命を落としているとされており、新たな抗生物質の発見とその臨床応用は喫緊の課題です。しかし、候補化合物の多くは実用化に至っておらず、新薬の開発は難航しています。こうした現状を打破するアプローチとして、既存の抗生物質に化学的あるいは酵素的な修飾を加えることで、抗菌活性や安定性といった機能を向上させる技術が注目されています。
研究内容と成果
本研究では、新酵素PalQ注2を用い、抗菌ペプチドへの脂質修飾を実現しました。PalQは、脂質の一種であるプレニル基注3を、抗菌ペプチドのトリプトファン残基に転移する反応を触媒します。この反応はプレニル化と呼ばれます。プレニル基の長さを調整することで、抗菌ペプチドの機能を最大化することが期待できます。
PalQにより、Plantaricin AやPA-Winなど9種類の抗菌ペプチドと、プレニル基の組み合わせを効率的に検討しました。結果として、ペプチドの末端にあるトリプトファンを中程度の長さのプレニル基で修飾したPlantaricin Aにおいて18倍、PA-Winにおいて15倍の抗菌活性の向上を確認しました。この活性向上がプレニル基と細胞膜の相互作用に起因することを、分子動力学シミュレーションにより明らかにしました。さらに、AIを活用した構造最適化により、PalQに有機溶媒への耐性の付与と、適用できる抗菌ペプチドの種類を拡張することにも成功しました。
今後の展望
本技術は、既存の抗菌ペプチドの再評価?再開発を可能にするのみならず、新規生理活性分子の創出や創薬研究にも応用が期待されます。酵素触媒による化学修飾の汎用化は、次世代の分子創薬プラットフォームとしての発展が見込まれます。
用語説明
注1) 抗菌ペプチド
細菌?真菌?ウィルスなどに対して殺菌?静菌作用を示す、アミノ酸鎖からなる抗生物質の一種。細胞膜障害による殺菌が主な作用メカニズムとされ、低分子性の抗生物質に比較し耐性菌が出にくいとされています。
注2) PalQ
当研究グループが微生物の遺伝子情報を精査して発見した酵素です。ペプチドの末端を選択的にプレニル化することが特徴です。また、変異に対して寛容性があります。変異により、さまざまな長さのプレニル基や抗菌ペプチドに対する反応性、有機溶媒への耐性を付与できたのは、寛容性のおかげです。
注3) プレニル基
イソプレン単位(C5H8)を基本骨格とする脂質の1種。炭素数5のジメチルアリル基、炭素数10のゲラニル基、炭素数15のファルネシル基、炭素数20ゲラニルゲラニル基などがあります。プレニル基の違いにより、プレニル基と細胞膜の相互作用が変化すると考えらます。
細菌?真菌?ウィルスなどに対して殺菌?静菌作用を示す、アミノ酸鎖からなる抗生物質の一種。細胞膜障害による殺菌が主な作用メカニズムとされ、低分子性の抗生物質に比較し耐性菌が出にくいとされています。
注2) PalQ
当研究グループが微生物の遺伝子情報を精査して発見した酵素です。ペプチドの末端を選択的にプレニル化することが特徴です。また、変異に対して寛容性があります。変異により、さまざまな長さのプレニル基や抗菌ペプチドに対する反応性、有機溶媒への耐性を付与できたのは、寛容性のおかげです。
注3) プレニル基
イソプレン単位(C5H8)を基本骨格とする脂質の1種。炭素数5のジメチルアリル基、炭素数10のゲラニル基、炭素数15のファルネシル基、炭素数20ゲラニルゲラニル基などがあります。プレニル基の違いにより、プレニル基と細胞膜の相互作用が変化すると考えらます。
論文情報
雑誌: Journal of the American Chemical Society
題目: Expanding the Chemical Space of Antimicrobial Peptides via Enzymatic Prenylation
著者: Hikari Ozawa, Azusa Miyata, Seiichiro Hayashi, Noriyuki Miyoshi, Koichi Kato, Sohei Ito, Daisuke Fujinami
DOI: https://doi.org/10.1021/jacs.5c06850
題目: Expanding the Chemical Space of Antimicrobial Peptides via Enzymatic Prenylation
著者: Hikari Ozawa, Azusa Miyata, Seiichiro Hayashi, Noriyuki Miyoshi, Koichi Kato, Sohei Ito, Daisuke Fujinami
DOI: https://doi.org/10.1021/jacs.5c06850
プレスリリース資料
お問い合わせ
静岡県立大学 食品栄養科学部 食品蛋白質工学研究室
助教 藤浪 大輔
E-mail: dfujinami(ここに@を入れてください)u-shizuoka-ken.ac.jp
准教授 伊藤 創平
E-mail::itosohei(ここに@を入れてください)u-shizuoka-ken.ac.jp
助教 藤浪 大輔
E-mail: dfujinami(ここに@を入れてください)u-shizuoka-ken.ac.jp
准教授 伊藤 創平
E-mail::itosohei(ここに@を入れてください)u-shizuoka-ken.ac.jp
(2025年8月6日)